真昼の情事/官能小説

  賄い付き下宿

                        蛭野譲二

   9.経験者


  
 しかし、このときの話は、続きがある。

 「あー、何かうれしいわ。いつも搾っても捨てるだけだったから」。

 「ああそうか。捨ててたんですね」。

 このときのまで俺は、母乳を捨てるということを全く想像したこともなかった。

 「そうなの。今でも一回搾ると、両方で六百くらいは楽に出てるの。今日みたいに時間が空くと、もっとたくさん出るかもしれないわ」。

 綾さんの話で、俺は自然に頭の中で計算していた。

 「六百ccとすると、今搾ったのが精々二百だから、まだ四百cc。まだ、片っ方のオッパイに牛乳ビン一本ずつくらい詰まってるのか?」。

 口には出さなかったが、そう思うと人間のオッパイもすごい製造能力を持っているもんだと感心させられた。そして、その想像は、近い線いっていた。

 「あーあ、お乳のこと話してたら、また張ってきちゃった」。

 綾さんは、何度か胸に軽く掌を当てる仕草をしていた。暫く何か考え事をしている様子だった。

 「ねえ、駿くん。オッパイ、吸ってくれないかしら」。

 少しの間沈黙していた綾さんが不意にそう言ったんだ。そこまでのことを言ってくるとは思わなかった。

 「遠慮しときます」とも、ニヤニヤしながら「へへ、いいですよ」とも言えず、俺はどう答えたもんかと言葉に詰まった。

 「オッパイって、今やってたみたいに手で搾ったり、専用の器具を使って搾ったりしてるんだけど、なかなかうまい具合に搾れないことも多いの。本当は赤ちゃんに吸ってもらうのが一番スッキリするんだけど、今は、そういうわけにも行かないし…。あの風邪のときは、ちゃんと意識してなかったかもしれないけど、あなたは、もうこのオッパイの経験者なんだし。…ね、いいでしょ」。

 駄目押しされては、断ることもできなかった。

 「はあ」と拍子の抜けたような返事だけした。もちろん、心の中では、試してみたいというか興味津々だった。

 俺の返事を聞くと、綾さんは早速に、またブラウスのボタンをはずし始めたんだ。

 こうなると俺は、ウキウキだ。なんせ、並外れた綾さんの巨乳をまじまじと見れるし、そのオッパイの手触りだって体験できるかもしれないんだ。

 「良かった。じゃあ、こっちの椅子に座って」。

 指示に従って、立ち上がると、空いている椅子を彼女に向かい、斜に置いて浅く腰掛けた。

 目前に晒された綾さんのブラジャーは白く、カップの縫い目の上の部分は、粗いレースで、ほとんど地肌が透けている。

 肩から一旦左のストラップを落とすと、綾さんは、思いの他乱暴にそのレースの部分を引き下げた。

 張りつめた魅惑的な乳房から、肌色と赤の中間くらいの色をした乳首を外気に晒す。

 オッパイを持ち上げ、念を押すようにカップを擦り下げると、巨大な球体の全貌が姿を現す。

 間近で見る綾さんのオッパイは、掛け値なしにバレーボールくらいある様に思えた。突端には、白いミルクが既に滲み出ていて、雫が伝い落ちていた。

 「さあっ、照れないで吸ってご覧なさい」。

 その声は、優しさが滲んでいるようだった。

 もう、俺は迷いなく綾さんのオッパイに吸い付いた。あのときの朦朧とした中での綾さんの言葉どおりに、思いっきり口をあけて大きく咥え込んだんだ。

 吸い始めは、本当に母乳が出ているのかよく分からなかった。だが、段々舌が甘みを感じ始め、扁桃腺の辺りに水気が溜まっているのが分かった。

 それを飲み下すと、熟しきった桃を食うときみたいに口を動かして、母乳を吸ったんだ。

 このとき知ったんだが、母乳の出方って言うのは一定じゃなく、ちょっとずつ出ている時もあれば、咥え方や搾る手の当て方によって噎せるほど口の奥に溜まるときもある。

 ただ単にオッパイを吸うといっても、けっこう難しい面もあるんだ。

 五分以上は左のオッパイを吸ってたんじゃないかな。そしたら綾さんが一旦オッパイを引き上げたんだ。

 「今度は、右を吸って」。

 綾さんは、やはりブラジャーのストラップを下げると、右のカップも引き下げる。

 両方剥き出しになったオッパイを見比べると、今まで吸っていた左より顕かに右の方がパンパンって感じだった。

 ちょっと椅子を寄せて、右の乳首を咥え、また母乳を吸い始めた。

 こちらは、待ってましたとばかりに、初めっから大量のミルクが口の中に入ってきた。危うく噎せ返るところだったくらいだ。

 何回かゴクゴク飲み下すと、いい感じで母乳を飲めるようになった。

 オッパイを吸われながら綾さんは、優しく俺の頭に手を当て、静かになでてくれていた。

 飲み続けているんで、けっこう口は力を使っているのに、何か落ち着けるひと時だった。

 ただし、元気になった俺の股間を綾さんに気取られないように、注意することだけは忘れなかった。



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