真昼の情事/官能小説

  賄い付き下宿

                        蛭野譲二

   8.ミルクの味


  
 梅雨も後半になり、もう真夏といっていい日も多くなってきた。

 綾さんは、あれ以来、俺の目の前でオッパイを搾るようなことはなかったんだが、ちょくちょく一緒にする食事時の話しっぷりからすると、まだ母乳がたくさん出ているようだった。

 彼女は、服装もすっかり夏向きになっていて、スカートも軽い感じのミニが多くなっていた。

 上に着ているブラウスは、益々薄くなった感じで、大きなオッパイを包むブラジャーは、いつもかなり輪郭がはっきり見える状態だった。

 薄くてもブラウスのボタンは、たいてい首元までとめていて、胸の谷間が見えるようなこともなかったが、体に張り付いてドーンと自己主張したオッパイのふくらみは、隠しようもなかった。


 そんなある日、俺は割りと早く部屋に戻っていた。

 もうこの頃は、綾さんが食事を作るのは二階が多くなっていた。

 ところがこの日は、いつまでたっても食堂で人の動く気配がなかった。初めは、一階で作っているのかとも思った。

 普段ならとっくに夕食が並べられている六時半頃、バタバタと階段を上がる足音がした。

 「ごめんね、遅くなっちゃって。今から直ぐ作るから、もうちょっと待ってて」。

 ドア越しに綾さんの声が聞こえた。

 それから十五分くらいして俺は、のこのこと食堂に出て行った。

 腹が減っていて、もう少し待てば食べられると思っていたし、もし、多少時間がかかったとしても、その間、肉感的な綾さんの姿を眺めているのも悪くないと思ったんだ。

 食堂で一緒にいれば、綾さんは気軽に話をしながら料理をしてくれてたしね。

 いざ食堂に入って「おっ」と思ったんだ。

 外出から帰った綾さんは、一階には寄らず直接二階に上がってきたらしい。

 椅子の一つには、スーツのジャケットが掛けられていた。

 綾さん自身は、白い半そでのブラウスに、膝上七、八センチのタイトスカートを穿いていた。

 俺に背を向けた綾さんのヒップは、適度なボリュームと張りがあり、「けっこうい、いいケツしてる」って感じだった。

 よほど急いでたのか、エプロンは腰から下だけのものだった。これは、二階のキッチンの引き出しに入れっぱなしになっているものだ。

 エプロンを掛けていない他所行きの薄いブラウスには、やはり他所行きの三段掛けホックのブラジャーがくっきりと浮かび上がっていた。

 縁はともかく、ブラジャーの生地は薄く、マーガレットの花柄のようなレース模様が、ばっちり見えていた。


 ほぼ食事を作り終えた綾さんが、テーブルに料理の載った皿を置き始めた。

 こっちを向いたとき、ブラウスの胸の所に、またシミが浮き出してるのを見つけた。オッパイの頂点の少し下辺りだ。

 それには気づいてないのか、綾さんは、料理の仕上げを何かしてた。

 それも終わり振り向いたとき、ブラウスのシミは、胸の左右にけっこう大きく広がっていた。

 綾さんは、こっちを向いているわけだから、俺も知らん振りもできなかった。

 「綾さん。胸のところ…」。

 何とか、それだけ言ったんだ。

 綾さんは、その言葉に気づき、ブラウスの下の方を引っ張るようにして見た。

 「あーあ。またやっちゃった。でもいいわ、どうせ煮汁も散ってるから、クリーニングに出すわ」。

 さして落胆してる様子でもなかった。

 それより、俺をどぎまぎさせたのは、彼女のその後の行動だ。

 綾さんは流しの方に行って、コップを一つ持ってきた。

 俺の向かいの席に座ると、ブラウスのボタンをはずし始めたんだ。

 初めてじゃないから、何をするかは直ぐに分かった。ただ、今度は俺もあんまり見ちゃいけないと思って、とっとと食事を始めた。

 箸をつけながら、チラッと目を上げると、既に綾さんは片方のオッパイを剥き出しにして、母乳を搾り始めていた。

 チーッチーッてコップに当たる音が聞こえ出した頃、綾さんが喋り始めた。

 「今日、ウチのアパートに行ってたのよ。あっ、こことは別に一軒賃貸のアパートを持っているの。少しお金をかけて、それを綺麗にしようと思ってたの。それで、外壁やなんかの打ち合わせを業者さんとしてたのよ。それはそれで、思ったより時間はかかったけど用は終わったの。そしたら、変な人と会っちゃったの」。

 話の途中で声が途絶えたので、ふと目を上げると、綾さんはブラジャーの中から丸い紙の様なものを引き出していた。

 「あー、べちょべちょ。これねー、お乳の漏れ止めのパッドなの。途中で換えられなかったから、もう役に立たなくなっちゃってる」。

 ベチャッと、そのパッドをテーブルに置くと、今度は反対のオッパイを出し始めた。

 俺はまた、飯を一生懸命食う振りをした。

 「その変な人っていうのは、ウチのアパートの住人なんだけど、家賃が滞納気味なの。そのくせ、なんだかんだって、いろいろ文句を言ってきて、ちょっと手を焼いてるの。今日は、それで遅くなっちゃった」。

 言葉の途切れた合間には、ジュージューとミルクがコップに注がれる音が聞こえた。

 「オッパイもけっこう張ってきて、早く戻りたかったのに…。結局こんなみっともないことになっちゃった」。

 「振り」とはいえ、黙々と食べてたから、俺はほとんど食事が終わってしまった。

 顔を上げたときは、ちょうど綾さんの乳首がブラジャーのカップに仕舞われるところだった。

 何故かあまり丁寧にしまわず、ブラウスのボタンも上から三つを開けたままにしていた。

 「あら、もう食べちゃったの?。早いわね」。

 綾さんの声に、俺は頷く。

 「じゃあ、お茶代わりに、これでも飲む?」。

 目の前に、さっきまで綾さんが手に持って母乳を搾っていたコップが置かれたんだ。

 このときは、リアクションに困った。

 初めて、目の前で母乳を搾ったときは、使い終わった茶碗だったから、冗談と判断することもできたが、今度はそれとは違う。綾さんは、笑顔でコップを差し出してきたんだ。

 どう答えたものかと思い、口を開きかけたとき、それより早く綾さんが言った。

 「初めてじゃないから、いいでしょ?」。

 この言葉を聴いた瞬間、俺の後頭部から背中にかけてズンと神経か何かが走る感じがした。

 もちろん、赤ん坊のときを含めて「初めて」って言ったんじゃないことは、直ぐに分かった。

 綾さんは笑顔を絶やさないように、俺の顔を真っ直ぐ見ていた。

 「そうよ、思い出したみたいね」。

 そうだ、風邪をひいたとき見たのは、夢じゃなかったんだ。夢うつつ状態だったのは確かだが、あれは夢ではなく、うつつの方だったんだ。

 綾さんは、もう一度ちょっと深く笑みを作った。

 「あの時は、駿くんの病気が早く直るようにと思ってやったんだけど、実際飲んでくれて凄く嬉しかったの」。

 こうなったら飲まないわけにも行かない。俺は意を決してコップを手に取った。

 「じゃ、いただきます」。

 それだけ言って、白い液体を口に含んだ。

 綾さんの母乳は、飲み初め何だかはっきりしない味だったが、喉越しはやはり牛乳のようであることを知った。生温かったが、ひどい生臭さを感じたわけでもなく、あまり違和感はなかった。

 「どう?、美味しかった?…。美味しいわけないわね。変なことさせちゃって御免なさい」。

 「いえ、けっこう美味しいですよ」。

 一瞬、心配そうな顔をした綾さんを見て、つい、そう答えちまったんだ。

 でも、そうしたら綾さんは、また綺麗な笑顔を取り戻してくれた。



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