真昼の情事/官能小説

  賄い付き下宿

                        蛭野譲二

   10.立ち退き交渉


  
 その次の金曜だったと思う。

 夕食のとき、綾さんから頼み事をされたんだ。

 頼みごとってのは、例のアパートの変な住人に、「これから立ち退きを通告するから付いてきて欲しい」というものだった。

 当時十八歳の俺には、怖くもあったが、逆に修羅場を潜るってのに、ちょっと憬れもったんだと思う。

 それに、もうこの頃は、下宿に居れば土日でも夕飯を作ってもらうのが当たり前のようになっていたんで、綾さんには相当に恩義を感じていた。

 で、「交渉には、何も関わらなくていいの。ただ、一緒に居てくれれば心強いから」と言う言葉で付き合うことにしたんだ。

 夜九時過ぎ、綾さんに呼ばれて、表に出た。

 このときの綾さんは、膝下までの長めのスカートにローヒールの靴、ブラウスの上に厚手のカーディガンを羽織っていた。そして、あの黒縁のメガネを掛けていた。ちょうど初めて下宿を見に行ったときのような格好だ。

 アパートに向かう道すがら、綾さんから簡単に相手の男の説明を聞いた。

 その男は、ヤクザなどではなく、土木か建設関係の仕事をしていて、収入がないわけではないらしいこと。ただ、ただパチンコや競馬が好きで、既に何カ月分も家賃を滞納しているとのことだった。


 アパートは、下宿から歩いて十分くらいの所にあった。

 「テディーハウス」という看板の掲げられたそのアパートは、少しデコレーションが施されていた。何の変哲もないアパートとは違い、ちょっとお洒落な感じではあった。

 「『テディーハウス』っていう名前の由来は何かな?」と思ったがその疑問は、直ぐに解けた。「熊」だ。「熊田」の「熊」と「テディーベア」の連想で名づけたものだろう。

 アパートは、二階建てで上下四つずつの部屋があった。

 この内、一階の一番奥の部屋だけが少し雰囲気が違っていた。玄関戸の周りにゴミが積み上げられ、何かそこだけ小汚い感じだった。

 綾さんは、その小汚い戸口の方に向かっていった。窓から明かりが漏れていて、当人は既に帰宅しているようだった。

 「とりあえず外で待ってて。ドアは閉めないようにするから、あまり離れずに外で待っててね」。

 そう言うと、綾さんはチャイムを鳴らした。

 住人は直ぐに出てきて、綾さんが玄関に入り込む。このとき、彼女は、意識的に玄関戸を開け放していた。部屋の中には、揚がり込まないで、玄関での立ち話になっていた。

 俺は、住人側から死角になる位置に立って、耳を澄ましていた。

 しかし、アパートの前を車がよく通るので、話をはっきりとは聞き取れないでいた。

 「もう三ヶ月以上、お支払い頂いてないんですよ」。

 「そんなこたー分かってんだよ!」。

 一際大きな男の声がしたとき、俺は玄関に駆け寄ったんだ。

 中には、角刈りでがっしりとした体格の男が立っていた。

 「何だ、この若造は?」。

 俺を見るなり、その男は、こっちを睨むように言い放った。

 だが、綾さんはまだ落ち着いていた。

 「私の連れです。夜道なんで付いて来てもらったんです」。

 すると男は、綾さんと俺を交互に眺め、少しトーンを抑えて言ったんだ。

 「ははーん、ボディーガードってわけか。その馬鹿でっかいオッパイで小僧をたぶらかしてんだろう。帰ったら小僧は、お駄賃代わりにオッパイ吸わしてもらうのか?」。

 この言葉を聞いて、俺は頭に血が上りそうになった。

 俺自身が子供扱いされたことより、綾さんにセクハラな言葉を浴びせたことに、妙に腹が立ったんだ。

 俺は綾さんの前に出ようと、足を踏み込んだ。だが綾さんは、腕でそれを制止した。

 「今なら、敷金の分があるから、何とかそれを家賃に当てられます。でも今月を過ぎたらそれでも足りなくなります。預託金も全然ない状態だったら、裁判所も立ち退きの仮処分を出してくれるって、不動産屋さんから聞いてます。どうします?」。

 このときの綾さんは驚くほど毅然としていた。

 男は暫く黙り込むと、改めて口を開いた。

 「ああ、出てきゃいいんだろ。こんな小汚ねーアパート、出てってやらー。その代わり、もう金は一円も払わねーからなー」。

 「結構です。今月中に荷物もそっくり引っ越してもらえるんなら、もう家賃のことは言いません。ただし期限だけは守ってください」。

 結局、立ち退き交渉はこれで終わった。

 「小僧、こんな女と関わってると、オッパイは吸えたって、金の方は全部吸い取られちまうぞ」。

 これが、男の捨て台詞だった。


 下宿に帰る道では、二人とも無言だった。

 俺は、あの男に見透かされたように「オッパイ吸ってる」って言われたことが、気になっていた。

 下宿に着くと、俺はそのまま二階に上がる方の玄関に歩こうとしたんだ。

 「ねー、お茶でも飲んでいって」。

 その声は、先ほどの毅然とした綾さんとは、打って変わって、か細い感じだった。

 靴を脱いで、一階に上がり込む。

 綾さんは、俺を振り向くこともなく居間に向かう。

 そして、ソファーのところに来ると、へたり込むように腰を落としていった。

 「あー、怖かった。こんな経験、初めて」。

 俺も綾さんがこんなに感情を出して、声を発したのは初めて見た。

 「ねー、こっちに座って」。

 まだ、ボケッと突っ立っていた俺に、綾さんはソファーの直ぐ隣の位置を手で叩いて示していた。

 直ぐ隣に座ると、綾さんは身体を摺り寄せ、頭を俺の肩に預けてきた。

 ほんの暫くそうしていると、綾さんは頭を上げ、メガネをはずして、目の前のテーブルに放るように置いた。

 今度は俺の手に綾さんの掌が重ねられ、また肩に頭を着けて来た。綾さんの手は冷たかった。

 そのときは、特に誘われてるって感じじゃなかった。ただ、二人で寄り添っているのが恋人同士みたいで、何かちょっと嬉しかっただけだった。

 その後暫く、綾さんは全く動かなかった。

 「寝てるのかな」と思って顔を覗きこんだときだった。

 「御免ね、ボーっとしちゃって。でももう、だいぶ落ち着いたから大丈夫」。

 やはり、先ほどの駆け引きが相当に神経を張り詰めさせていたんだろう。

 だが、彼女は身体を起こし、いつもの穏やかな顔を取り戻していった。

 「あっ、いっけない。お茶も出さないで、ごめんなさいね」。

 俺を残して立ち上がると、ダイニングテーブルの方に行き、きゅうすにポットのお湯を注ぎ始める。

 ズル、ブシュブシュブシューと、ポットから無粋な音がした。

 「あれー、お湯も切らしちゃったみたい」。

 俺が彼女を見上げると、ちょっと悪戯っぽく笑みを湛え、こちらに戻ってくる。

 「ねえー、緊張が解けてきたら、何だかまた張ってきちゃったの。お茶代わりって言うのも変だけど、またオッパイ飲んでくれないかしら」。

 言うが早いか、彼女はカーディガンを脱ぎ捨てて、また俺の隣に腰を落としていた。

 綾さんのオッパイを味わえるのは、もちろん嬉しかったが、俺はあの男の言葉が気にかかっていた。

 「でも、それだと、さっきのヤツの言った通りになっちゃうよ」。

 だが、綾さんは、そんなこと気にする風でもなかった。

 「変なこと思い出させないで。そんなこと気にしないでよ。このお礼は、きっと別に考えるから。それにお乳を吸われるのって気持ちがいいし、すごく落ち着くのよ。…ね」。

 まくし立てられるように言われれば、返す言葉はなかった。

 綾さんは、ブラウスのボタンをはずし始めていた。

 袷の間からは、深い胸の谷間が見え隠れする。

 前が広げられると、淡いレモン色のブラジャーが姿を現す。

 彼女が身に着けているブラジャーは、いつも皆セクシーで野暮ったいのをしているのを見たことがない。

 このときも、縁を派手に飾りたてるようなレースは付いていなかったが、カップの上半分は花柄のほとんど透けるレースで、下側も同様のレースに一枚布が裏打ちされているような感じだった。

 「さー、駿くん、吸ってー」。

 ブラジャーのカップを押し下げ、現れ出たオッパイは、上の方までが丸く張り詰め、乳首に向けて幾筋かの静脈が浮かび上がっていた。

 授乳機能の中心である濃いピンクの突端は、既に水気を帯び、白く濁った水滴が出始めていた。

 俺は、綾さんの胸に覆いかぶさるように顔を付け、その頂を咥え込んだ。

 彼女が乳房に手を沿え、少し前へ絞り出す様にしてくれると、口の中に一気に甘味が広がっていた。

 幾度となく喉をミルクが通り過ぎると、俺も落ち着いてきて、ゆっくりと飲み続けることができた。

 右のオッパイをある程度飲むと、綾さんが左のオッパイを飲むように促してきた。

 ただ、右に座っていた俺からは、少し遠くちょっと咥えづらかった。

 「反対を向いて、膝もソファーに上げて寝転がってご覧なさい。膝枕にしてあげる」。

 綾さんの膝は、柔らかかった。そこに頭を預け、超至近距離から巨大なオッパイを眺めた。

 手を挙げ綾さんのオッパイを触ってみた。スベスベの肌触りは心地よかった。

だが、乳房自体は、意外なほど硬かった。

 「ねっ、パンパンでしょ。お乳が溜まってくると、こんなになっちゃうの。もう暫く放っておいたら勝手に噴き出しちゃうわ。オッパイって溜まりすぎると、けっこう痛いんだ。だから遠慮しないで、いっぱい飲んでね。駿」。

 綾さんは、生き別れた赤ん坊と俺を混同しているような感じだったが、さして気にならなかった。

 それより、頭をなでられながら母乳を吸うことに、落ち着きを覚えた。

 何度目かの綾さんの母乳は、美味しいとすら思えてきたんだ。お陰でこのときは、無心でミルクを飲み続けることができた。

 この日を境に、俺と綾さんの母乳浸けの生活が始まることになる。



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