真昼の情事/官能小説


  重役秘書

                        蛭野譲二

   12.エピローグ


  
 翌日。

 義雄は、帰国した田崎からお呼びがかかるのを待っていた。

 アメリカでの交渉は「一応成功した」とは聞いているが、子細はまだ耳に入っていなかった。

 午後になって、ようやく小夜子が部屋に入って来た。

 「課長。専務がお呼びです」。

 しかし、小夜子は事務的な連絡だけすると直ぐに部屋を出ていった。この日の彼女からは、何時ものミルク・サービスもなかった。

 義雄は、「やはり、昨日までの夢か」などと、思いを巡らせつつ田崎の部屋に向かった。

 部屋に入ると、田崎が応接椅子にどっかと腰を下ろしていた。しかし、今一つ浮かない顔である。

 「アメリカの交渉は、うまくいったそうで、おめでとうございます」。

 「それが、あんまりめでたくもないんだよ」。

 「と、いいますと?。出資比率はフィフティ・フィフティじゃないんですか?」。

 「ああ、そうだよ。社長も日本側から出すことになった」。

 「じゃあ、何がめでたくないんですか?」。

 「ただし、『日本側から出す社長は、設立の事情に精通した者にしてくれ』とさ」。

 「と、言いますと?」。

 「お前も鈍いなあ。俺だよ、俺に『社長になれ』とさ」。

 「専務も力を入れていたプロジェクトじゃないですか。むしろ、やりたいことがやれて面白いんじゃないですか?」。

 「バカ野郎、行かないヤツはのんきなもんだよな。無責任なこと言ってろー」。

 「失礼しました。怒っちゃいましたか?」。

 義雄が戯け顔で様子をうかがう。

 「社長も『二年で呼び戻す』とは言ってくれてるが、二期はやらんと軌道に乗らないだろー」。

 暫く無言で腕組みをしていた田崎は、急にさばけた顔になり、両膝をたたく。

 「まあ、もう決まったことだから仕方ないか。広田。お前は、こっちからちゃんとサポートしろよ。もしも手を抜いたりしたら、お前もアメリカ出向だからな」。

 そう言って田崎は笑顔を取り戻した。

 そこへコーヒーを持った小夜子が入ってきた。

 小夜子は、トレーをテーブルの端に置き、田崎の斜め前にコーヒーカップを置く。

 そして、自ら胸をはだけ、何時もの巨大なオッパイを二人の前に晒す。

 コーヒーカップに三、四回母乳を搾り出すと、それを皿に載せ直して田崎に差し出した。

 次は、義雄の番である。

 田崎のときと同じように、一旦、義雄の斜め前にカップを置く。ただし、カップの中には、またも一滴のコーヒーも入っていない。

 カップを手に取ると、ジュージューと音を立てて、母乳を注ぎ続ける。

 その一部始終を見ていた田崎が笑いながら口を開く。

 「広田。お前は、小夜子クンと随分馬が合ってるみたいじゃないか。これで何の心配もせずにアメリカに行けるよ」。

 「はあ」。

 義雄は当たり障りのない返事をしていた。

 「小夜子。お前も異存はないんだろ?」。

 義雄にコーヒーカップを差し出し終わって、まだ大きなオッパイを晒したままになっている小夜子がコクンと頷く。

 乳房をブラジャーに収め直した小夜子が退室すると、義雄から口を開いた。

 「専務。今の話、良い方に解釈してよろしいんですか?」。

 「ああ、お前の思うようにすればいい。実はな、暫く前からカミさんにかなり疑われてるんだ。何時ぞや、小夜子クンが泣いていたことあっただろ。あれは、俺が変なことを言ったんじゃなく、たまたま家からの電話を受けた彼女に、ウチのが嫌みなことを言ったかららしいんだ。だから、そろそろ潮時だと思ってるんだ。アメリカに行く前に小夜子クンの家へ行ったのが、俺としての最後の晩餐のつもりだったんだ」。

 「じゃあ…」。

 「もう終わったものと思っていい。それは、彼女も承知のはずだ。詳しいことは知らんが、俺がアメリカに行ってる間、お前も相当のことを小夜子クンにしたろ。そのとき彼女は、一生懸命お前の言うことをきこうとしてたろ。俺の命令ではなく彼女の意思で付いて行こうとしていたはずだ」。

 「はあ、解りました。有り難うございます」。

 「広田。何も強要するつもりはないが、いっそ、また身を固めたらどうだ?。そうなれば、俺はカミさんからも完全に無罪放免となるんだがな」。

 「そっちの方は追々考えますが、随分と諦めがいいですね」。

 「バカ野郎、諦めたんじゃないんだよ。これからアメリカで、もっといい女を掴まえるつもりなんだよ。お前なあ、金髪女のオッパイていうのは、すごいんだぞ。本当にデカイ女って言うのは、小夜子クンの比じゃないんだ。俺が二週間もアメリカに居て、まじめに仕事だけやってたなんて思ってないだろうな」。

 「と言いますと?」。

 「しっかり目星はつけてあるんだよ。そのうち、お前にも引き合わせることがあるかも知らんが、まあ、見て驚くなよ」。

 少々強がりを言っているようにも聞こえたが、田崎の義雄への気遣いははっきりと読みとれた。もはや、完全に「代理人」ではなくなっていたのである。


 その日、義雄は、遅くまで仕事をしていた。社内も人の気配がほとんど感じられなくなっていた。

 ぼちぼち帰り支度を始めようと思ったとき、部屋のドアをノックする音が響いた。

 入ってきたのは、にこやかな顔の小夜子だった。

 ドアを閉め終わって向き直ったところで、義雄から話し始めた。

 「専務から話は聞いたよ。君さえ良ければ、俺はちゃんと付き合いたいんだがね」。

 「はい、よろしくお願いいたします。ただし…」。

 また、小夜子が自らブラウスのボタンを外し始める。左のストラップを肩からずらし、瑞々しく張り切った象牙色の乳房を晒した。オッパイを完全に剥き出しにすると、右手をその下にあてがい、ぐっと突き出すようにする。

 一瞬妖しげな笑みを浮かべると、強く右手を絞り上げる。

 白い飛沫が噴き上がり、義雄の顔を直接ミルクの水鉄砲が襲う。

 反射的に目を閉じた義雄が再び視線を小夜子に向ける。

 「ただし…、専務には、もう飲んでいただけなくなるんですね。その分も含めて、オッパイの責任はちゃんととってくださいね」。

 そう言い終わると、小夜子は可愛らしく首を傾げ、満面に笑みを湛えた。

                             (完)


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