真昼の情事/官能小説

  ミルク宅配便

                        蛭野譲二

   4.夕方の引き取り


  
 夕方、宅配便が来るまでの間に、私は着々と準備を進めました。

 授乳があるので飲みもしないのにコーヒーを作ります。それもインスタントではなくドリップで入れ、水に浸してアイスコーヒーにしました。

 オッパイを瑠美に与えた後、搾乳器で残乳を搾ります。この時も良く出て、パック二つ分搾ってもまだ出ます。結局、哺乳瓶にもう半分くらい搾りました。

 半端な量のは普通捨てて仕舞うんですが、この日はあえてそのままテーブルの上に置いておきました。

 本当は買い物にも行きたかったのですが、坂崎クンと入れ違いになるといけないので外には出ませんでした。

 出掛けるとなる朝から着ていた服では抵抗があるので着替えなくてはなりません。もちろん、帰ってからまた着ても良いのですが、それではあまりにも露骨に彼を誘うようで、気が引けたのです。

 それに、パンティーを穿かずに居る自分自身への理由もなくなってしまいます。日が傾いた頃には、クーラーを切っていたので、ノーパンはそれなりに快適でした。でも、それ以上の理由に、自分でも気が付いてはいたのです。


 午後六時を回って、チャイムが鳴りました。

 玄関前に立っていたのは、宅配の坂崎クンです。

 玄関に招き入れた彼は、また少し照れているような顔をしています。

 「ちょっと待っててね。今持ってくるから」。

 私はまたリビングに戻るとき、少しスカートが広がるくらい勢い良く振り向きます。後ろからは彼の息づかいが聞こえました。

 母乳パックを冷凍庫からクーラーボックスに移し終わり、一旦ボックスを持ち上げてみます。母乳パックを二十個以上に冷却剤まで入っているので、予想通り結構な重さになっていました。事前に考えていた通り、リビングから彼を呼びました。

 「ねー、ちょっと。重いから取りに来てくれないかしら?。上がって来てかまわないから」。

 彼は何か遠慮しているようで、なかなか来ませんでした。リビングのドアから上体を出して、もう一度呼びました。

 目が合うと彼は、慌てて靴を脱ぎ始めました。

 リビングに入ってきた彼に、クーラーボックスを持つような格好をしてみせました。

 「これなの。持ってみて」。

 前屈みの体制のまま少し後ろに下がると、彼がボックスを持ちに寄って来ます。彼がボックスに手を掛け顎を退いたときに、ちょうど私の胸が目に入るようにしました。

 一瞬びくっとした様子でしたが、彼はそのままボックスを抱えました。

 「たいしたことはないですよ」。

 そういって彼は、そのまま歩き出します。

 「今日は、ウチが最後?」。

 「ええ」。

 「それだったら、ちょっと待って」。

 私が呼び止めると、彼は振り返ります。

 「それだったら、慌てることないわよね。また冷たい物でも飲んで涼んでいって」。

 彼の顔がぱっと笑顔に変わりました。

 「毎回、すいませんね」。

 クーラーボックスを足下に置いて、彼は向き直りました。

 「まあ、そこの椅子に座って」。

 私は、仕込んでおいたアイスコーヒーを取り出して、グラスに注ぎました。彼の前には直ぐ置かず、一旦テーブルの端に置きます。

 「ミルクも入れる?」。

 「はい、お願いします」。

 その言葉は、私の狙い通りでした。また冷蔵庫を開けて中を見る振りをします。牛乳は、さっきまでに飲んでしまっていて、もう無いのは分かっていました。

 「あれー。ミルク切らしちゃったみたい」。

 「無いなら、構いませんよ」。

 冷蔵庫から顔を上げると、彼はテーブルの真ん中に置いていた搾乳器を見ていました。ドアが閉まる音で彼は私の方に目を上げます。ちょっとばつが悪そうな顔をします。

 「もし良かったら、それ入れてもいいわよ」。

 今度はちょっと怪訝な顔をします。

 「でも、気持ち悪いわよね。母乳なんて」。

 「いえ、そんなことはありません」。

 もちろん、お世辞で言ったんだと思うんですけれど、この時の私は空かさず、その言葉を貰いました。

 「本当に良ければ、入れてみてもいいわよ。どうせ半端なので捨ててしまうだけなの」。

 そんなことを言いながらも、私は搾乳器から瓶を外し始めていました。そして、有無を言わさず、瓶の母乳をグラスに入れてしまいました。

 目の前に出されたアイスコーヒーを彼は飲まないわけにはいかない状況です。

 彼は少し変な顔をしていましたが、覚悟を決めたようにグラスに口を付けます。

 「生臭くない?」。

 私は、出来るだけ自然な笑顔で聞きました。

 「えっえー、別に変じゃないです。美味しいです」。

 ちょっと無理してるようにも思いましたが、彼は嫌がっていたわけでもなさそうです。

 結局その日は、それだけのことで彼は帰っていきました。でも、彼の勤務予定を聞くのは怠りませんでした。



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