真昼の情事/官能小説


  食物循環

                        蛭野譲二

   10.いたずら


  
 手始めは、本や雑誌類の整理だった。

 一郎の読んでいた実用書やもはや不要になった育児雑誌などを選り分けて、廃品回収に回せるようにまとめる作業である。

 「私が、要る本と要らない本に分けるから、健二くんは下に出した本をだいたいの大きさに分けて、この紐で括ってちょうだい」。

 枝美子が指示を出し、早速作業に取りかかった。

 何かに付け研究熱心だった一郎の本は数も多く、本の整理だけで正午を回り込んでしまっていた。

 「お腹がすいたでしょ、お昼の支度をするから、残りを縛っておいてね」。

 枝美子がダイニングルームの方へ去って行った。

 健二は、二、三の束を作り終えると、育児書をぱらぱらとめくって見た。授乳の項には、たまに乳房の写真が載っている。

 それを眺めるていると、先程までそばに居た枝美子の豊かなバストとイメージがオーバーラップしてしまい、慌てて頭の中の妄想を打ち消そうとした。

 一方、枝美子は、パンと簡単なおかずの準備を終えると、冷蔵庫から牛乳のパックを取り出した。

 あいにく牛乳はほとんど残っておらず、ミルクピッチャーに入れては見たものの、不自然なくらい量が少ない。

 ふと目を上げると、昼の支度の前に手早く搾っておいた搾乳機の瓶が目に入った。

 ちょっとした悪戯心も過り、ミルクピッチャーに自分の母乳を継ぎ足して、食卓の上に置いた。

 昼食時の会話は枝美子が思った以上に弾み、二人はすっかり打ち解けていった。

 ただ、健二がお替りした紅茶にミルクを入れるときは、ついその動作を見詰めてしまっていた。

 「何かおかしな事をしましたか?」。

 見詰められた健二は不安げに言った。

 「うんん、何でもないの」。

 枝美子は照れ笑いをした。



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