真昼の情事/官能小説


  重役秘書

                        蛭野譲二

   7.羞恥のデート


  
 小夜子は、指定されたターミナルの駅前に立っていた。

 この日、小夜子はメガネをはずし、あまり使うことの無かったコンタクトレンズにしていた。会社の人間や知り合いに気づかれにくいように、化粧も少し濃い目にし、何時もとは違った感じにていた。

 待ち合わせの時間を二十分過ぎていたが、義雄はまだ現れない。

 目の前を通り過ぎる大勢の人たちの中には、小夜子の豊かな胸元を見て行く者も多く、晒し者になっているような気分だった。

 幸い今までは、小夜子に声をかけてくる者も無かったが、変な男が寄ってこないように祈る思いで義雄を待っていた。

 それからさらに何分かたった頃、恐れていたことが起きた。明らかにナンパ目的の若い男が言い寄ってきたのである。

 「俺、お姉さんみたいなの、すごい好きなんだ。まだ、時間早いしさ、面白いところ行こうよ」。

 「待ち合わせですから」。

 「さっきから随分待ってるようだけど、全然来る気配無いよ。もう、来ないから行こうよ」。

 ナンパ根性丸出しの男は、簡単には引き下がりそうになかった。

 小夜子が手を焼いているところに、やっと義雄が現れた。

 「よお、遅くなったな」。

 普段より少し横柄な感じで、二人に割り込むように声をかける。

 「何だ、オヤジが相手かよ」。

 捨て科白を残すと若い男は去っていた。それまで、困っていただけに小夜子としては助けられた思いだった。

 だが、ほっとしたのは束の間で、ここからは義雄にいたぶられる番である。

 小夜子の姿を上から下まで一通り観察すると、早速に言葉いびりが始まった。

 「まあ、上はカーディガンを脱げば合格だが、下は何時もと変わり映えしないじゃないか。これじゃあ、あまり意気込みがあるとは言えないな」。

 このときの小夜子は、それなりに派手目な格好をしていた。上に羽織った薄手のカーディガンの下には、かなり露出度の高いタンクトップを着ていた。カーディガンの生地を通して胸の半球が透けて見えていたのである。

 しかし、下半身に身につけたスカートは膝上十二、三センチのストレートで、義雄の期待したものとは大きく食い違っていたのである。

 一方、小夜子にしてみれば、やむを得ないことでもあった。普段からパンティーを穿かない彼女にとって、これ以上短いスカートで駅の階段を上り下りするのは不可能に近かった。先だって、小夜子の部屋へ田崎と訪れた時に穿いていたスカートも、外出時に着たことはないのである。

 「すみません。ただこれでも、けっこう勇気がいったんです。上着は脱ぎますから、それで許していただけないでしょうか」。

 不機嫌そうな義雄を見て、小夜子は自らカーディガンを脱いだ。

 こぼれ出そうなアイボリーの球体は、それだけであから様に男を誘うようであった。現に義雄の背後からも「でっけーなー」などと通りすがりの声が聞こえてきた。

 「とにかく、少し鍛えないといけないみたいだな。付いて来なさい」。

 まだ、不満の残る義雄だったが、ここではそれだけ言って歩き始める。

 繁華街を歩いている間、すれ違う人間のほとんどが小夜子の胸元にちらりと目を走らせていた。小夜子にとっても白昼こんなに胸を露出した格好で出歩くのははじめてだった。自分から言い出したことだが、あらためて胸の大きさを恨む思いだった。

 十分ほど繁華街を歩いたところで、二人は一軒のブティックに入った。そこは、安っぽい店ではなかったが、どちらかというと若向きの洋服を扱う店だった。

 義雄が率先して店の奥に入り、小夜子をちらちら見ながら勝手にスカートを物色し始める。

 「これなんか、いいんじゃないか?」。

 差し出されたスカートを見て、小夜子は「うそ!」と声をあげそうになった。

 それは、無地のクリーム色でフレアラインのスカートだった。だたし、丈は中途半端はミニではない。ハンガーに吊り下げられたスカートは全体の丈が三十六、七センチしかないのである。

 浮かぬ顔の小夜子を後目に、義雄は早速に店員を呼び止め、彼女を試着室に押し込めてしまった。

 小夜子は、やむなくスカートを穿き替えてはみたが、鏡に映る自分の姿を見て、とてもカーテンを開ける気にはならなかった。

 穿いてみるとこのスカートは股下十センチにも満たないのである。ストッキングをずり上げ、ガーターベルトのストラップを調節してみたが、ストッキングのレース部分を隠すことができたかは、はなはだ疑問である。

 「おい、もう済んだか」。

 返事をする間もなくカーテンが開かれた。

 少しにやけた顔をした義雄が小夜子の全身を眺める。

 「似合ってるじゃないか。ね、店員さん」。

 「はい、上との反対色になりますから、随分映えると思いますよ」。

 「じゃあ、決まりだ」。

 小夜子に口を挟む隙を与えず、さっさと買うことになってしまった。

 自分の好みのものを選べないことを悟ると、小夜子は元のスカートに穿き替えるためにカーテンを閉めようとする。

 そのとき、義雄の手がカーテンを素早く押さえた。

 「店員さん、このまま着て行くから、値札だけはずしてください」。

 その言葉を聞いて、小夜子には、この日の義雄の狙いがはっきりと解った。

 サンダルを履くために腰を落とすと、それだけでガーターの留め金がスカートの裾から出てしまう。それを義雄がにやにやしながら眺めていた。

 初めに着ていたスカートを紙袋に入れてもらい、二人は店を出た。

 一応は外に出たものの小夜子はなかなか歩き出せずにいた。義雄の意図はある程度承知の上だが、ほとんど太腿剥き出しで外に出るとなると、やはり少々足が竦む。

 普段からノーパンで出歩くのに馴れているはずの小夜子だが、スカートがスカートなだけに何時もとは事情が全く違う。

 「オッパイばっかりに注目されると辛いだろ。周りの連中の視線が分散して、この方がいいと思ってな」。

 義雄は無責任にそう言うと、小夜子を後押しする。

 義雄が歩き始めても、小夜子はそうスタスタとは歩けない。わずかな風にも捲れてしまいそうなスカートの裾が気になって仕方がないのである。


 二人は地下通路に通じる階段を下り始めた。

 小夜子は、下から上がってくる人が居ないか気が気でなかったが、幸い二人が降りている間誰も上がってくる者はいなかった。

 地下通路を歩いている間も、小夜子は注目の的だった。しかし、それ以上に彼女を不安にさせたのはホームレスの存在だった。

 彼らは皆、壁際に寝転がっているのである。

 多くの者は本当に寝ていたり、何かを読んでいて通行人には無関心でいたが、中には通り過ぎる人間を眺めている者も居る。

 一人の寝転がった男が近づいてくる小夜子を下から見上げて、ニヤっと笑いを浮かべた。

 それに気づくと小夜子は慌ててスカートを手で押さえた。

 「今度、手でガードしたら、今日もこのまま帰るからな」。

 空かさず、義雄がたしなめる。

 結局その後暫くは、ホームレス達に無防備な下半身を何回も覗かれることとなってしまった。今まで意識することの無かった彼らの視線をこんなに感じたのは初めてである。

 小夜子は暫く人通りの多い通路を引き回された後、恐れていた場所に連れてこられた。デパートのエスカレーターである。

 義雄に促されて、周囲を気にしながら登りのエスカレーターに乗った。

 幸い、一階から三階くらいまでは、人の切れ間がなく、下からスカートの中を覗かれる可能性も低かった。しかし、四階を過ぎる頃には、後ろの客と何段か離れた状態で、エスカレーターに乗り続ける格好になった。

 スカートの裾をガードすることが禁じられた小夜子は、戦々恐々と登り終わるのを待つしかなかった。

 おそらく下に居る客からは、ストッキングのレース部分くらいまでは、見えているはずである。

 義雄は、わざと一段下のステップに彼女と斜に乗り、次の客が必ず小夜子より二、三段は下になるようにしていた。

 「下りのエスカレーターの連中が、お前を見上げてるぞ」。

 義雄は時たま、そんな言葉を耳打ちして、小夜子をいたぶり続けていたのである。

 最上階の飲食街にたどり着いた頃には、喉がカラカラになっていた。

 それを察してか、義雄は、その階の店に入り、少し遅い昼食を取ることにした。

 小夜子は、テーブル出された水で喉を潤し、一息つくことができた。しかし、まだ緊張を完全に取り払うことはできなかった。義雄が何時また母乳を要求してくるかわからなかったからである。

 向かい合わせに座った義雄は、明らかに小夜子の胸元に視線を当てていた。時折目が合うと、口をとがらせ乳房を吸う仕草をして戯けていたのである。

 この店は、昨日のミルクを搾らされた店とは事情が全く異なる。注文した料理を待つ客達は、手持ち無沙汰も手伝って、他の客の料理や様子をちらちらと見ていたからである。

 小夜子の不安をよそに、義雄は出された料理をぱくついていた。

 「大丈夫だよ。ここで『オッパイを出せ』なんてことは言わないから」。

 あまり食の進まない小夜子を見て、義雄はなだめるように、そう言った。


 食事の後、二人は繁華街から程近い公園に来ていた。

 やや強い日差しの中を歩いているうちに僅かながら風が出てきた。

 少し汗ばむような陽気の中での風は、それなりに心地よかったが、小夜子にとってはスカートの方が気がかりだったのである。

 園内には、さほど多くもないが、それなりにアベックや子供達が点在していた。

 暫く園内を歩いていた頃、小学校低学年くらいの子供のはしゃぎ声が聞こえてきた。

 子供は男の子二人で、互いに追いかけっ子をするように、小夜子達の横を進んだり遅れたりしながら動き回っていた。

 ただ、二人に向かって何かをしようというのではなく、子供同士でじゃれ合っている感じである。

 小夜子は義雄の歩くのに付いて、黙々と歩いていた。

 二人の小学生の声が後ろに遠ざかって、ほとんど聞こえなくなった時のことである。突然、小夜子のスカートが勢い良く捲り上げられた。

 小学生二人組の内の一人が、スカートを捲くって行ったのである。

 「やったー」と叫びながら走り抜けていったその子に続き、「おったまげー」と言いながらもう一人が全力で走り去っていった。

 間違いなかった。二人組の内、少なくとも後の一人には、何も穿いていないお尻を見られてしまったのである。

 反射的に小夜子はスカートを押さえた。他にも誰かにスカートの中を見られたかもしれないが、とても振り向いて確認する勇気はなかった。

 「たまにはアクシデントも有るよな」。

 スカートを押さえたことで義雄に咎められるかとも思ったが、義雄は涼しい顔でそう言い、何事もなかったようにまた歩き出した。

 二人が公衆トイレの横に来たときのことだった。

 「俺は、トイレに行って来るから、あの橋の真ん中で待ってなさい」。

 義雄は、そう命じると、さっさと男子用の方に入っていった。

 本当は、小夜子もトイレの中で張り始めた乳房を搾っておきたいところであったが、義雄より後に指定された場所に行ったのでは、後で何を言われるかわからない。

 そんな思いから、すぐに指定された橋に向かった。

 この公園内は何本かの公道で仕切られていて、それぞれのエリアは、公道を跨ぐ歩道橋などでつながれていた。

 指定された場所は、公園が道路より高くなったところで、対岸のエリアとはいわゆる歩道橋ではなく、幅四メートルほどのコンクリートの橋で結ばれていた。

 橋の中程に来ると、小夜子は橋の欄干越しに左右の風景を見た。

 「橋の真ん中で待っていろ」と言った義雄の意図はすぐに読めた。

 橋の下の道路には、多くはないが切れ目無しに車が行き交っていたのである。しかもたまには歩行者も居て、欄干に寄って立っていれば、下からスカートの中を覗かれる危険性が高いのである。

 それを避けるため、欄干から少し離れたところに立って待つことにした。しかし、義雄はいっこうに現れない。

 疎らに通り過ぎる人達は十人が十人まで、派手な格好の彼女を見ていた。

 「何んだ、こんな所に来てたんだ」。

 声をかけてきたのは、義雄ではなく、駅前でしつこく小夜子をナンパしようとした若い男であった。

 男は、小夜子と目が合うと軽薄な笑みを浮かべ、すぐ側まで近寄ってきた。

 小夜子は、あえて相手にしないように顔を背けていたが、勝手に誘いかけてくる。

 「直ぐに連れが来ますから」と断っても男は動じなかった。

 「何処に居るんだい?。もう、帰っちまったんじゃないか?」。

 確かに、随分と時間が経っているにもかかわらず、義雄がやってくる気配はなかった。

 そのことに気をよくしたのか、男は更に馴れ馴れしく話しかけてくる。

 「それにしても、すごい胸してるじゃん。上から零れ出そうだよ。それに、スカートがさっきより随分ミニになってるじゃん。勝負賭けるときは、そこまで短いの穿くんだ」。

 知らない男から無遠慮に身体や服装のことを言われ、小夜子がむっとした表情になる。

 しかし、このときの男は、怯む様子もなく、むしろ薄笑いすら浮かべていた。

 「さっき、見ちゃったんだよ」。

 小夜子は、はっとする。

 「そうさ、子供がスカートをめっくた時さ。こっちもおったまげたよ。こんな短いスカートなのに…、穿いてないなんてさ」。

 その言葉を聞いたときには、小夜子は完全にうろたえていた。

 「最初からやるつもりで、パンツ穿いてこなかったんだろ。それだったら話は早いよ。俺は外でするんだって構わないぜ」。

 どう見ても腕っ節が立つようには見えないひ弱そうな男だったが、このときの小夜子には恐ろしくていたたまれなかった。

 「違います」。

 橋の欄干ぎりぎりまで後ずさりしていた小夜子は、精一杯の力を振り絞ってそう言った。

 しかし、偶然は彼女に味方しなかった。橋を横切るように一筋の風が吹き上がったのである。

 フレアぎみのスカートは、傘を開くように広がり、男に一番見せたくないところを晒してしまったのである。

 「ノーパン女のくせして何が違うんだよ。しかも毛まで剃ってるじゃないか」。

 小夜子にとっては、絶体絶命だった。

 そのとき、横から義雄の声がした。

 「おいっ、何やってるんだ」。

 小夜子にも見せたことがない程の険しい表情で義雄が近寄ってくる。

 それを見た男は、一目散に駆け出していった。

 「待たせてすまなかったな」。

 義雄が次の言葉を言う前に、小夜子は義雄の胸に顔を埋め、泣き崩れていた。

 「よし、今日はここまでだ。後は、二人きりになろう」。

 小夜子に異論の有ろうはずもなかった。そのまま義雄に支えられてホテルに向かった。


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