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翌朝は、まどろみを繰り返すような穏やかな目覚めだった。
徐々に頭が回り始めると、香ばしい匂いが漂ってくるのを感じた。
ベッドの上には、既に綾さんの姿は無く、激しく愛し合った余韻を思い起こさせるシーツのシミだけがいくつも残っていた。
「昨晩は綾さんの中に何回迸りを注ぎ込んだだろうか?」。最後は、先っぽから泡しか出なくなるくらい男の精を出し尽くしていた。
この日は、朝立ちすることも無かった。
脱ぎ散らかしたはずの服は、丁寧にに畳んであった。それをのろのろと着てゆく。
「朝ごはん、出来たわよ」。
ちょうど服を着終わった頃、綾さんが部屋に顔を覗かせ、声をかけてきた。
ほんの何時間か前まで、顔を歪めて乱れまくっていたことが全く想像できないほどに、この日の綾さんは、しっとりと穏やかな顔をしていた。
服装も、スカートは膝丈くらいのを穿いていたし、ブラウスもボタンは、首元までピッチリ留められていた。
朝食は、目覚めに感じた香ばしさとは関係なく、取り立てて豪華なものでもなかった。
普段の下宿の朝飯で出されるものと、そう変わりはなく、トーストと目玉焼き、それにサラダが並べられていた。
飲み物もいつもと同じ綾さんの母乳がコップに注がれていた。ただ、前の晩のように、俺の目の前でオッパイを搾るようなこともなかった。
二人の会話も多くなく、坦々と朝食の時間が過ぎていったんだ。
飯が終わってレンタカーを借り受けに行った。それほど荷物も多くないんで、ワンボックスのバンを借りることにしてたんだ。
車を下宿に横付けして、荷物を運び出していた。
この間、綾さんは、冷蔵庫などの大きなものを出すときだけは手伝ってくれたが、あまり顔を出さず、一階で何かしている様子だった。
平日だったんで、手伝いに来てくれる人も無かったが、苦になるほどの作業じゃなかった。
全部荷物をバンに詰め込み終わって、小休止つもりで二階の部屋に一旦戻った。
ガランとなった俺の部屋を暫く眺めていたら、壁や柱に小さなシミが無数についている所があるのに気が付いた。
この部屋では何度もエッチをしたから、そのときに綾さんの母乳が飛び散ってシミになったんだろうと思い、妙に感慨深くなっていた。
いよいよ出発する段になって、挨拶をしに一階の玄関に入ったんだ。
「あのー、じゃあ、そろそろ行きます」。
声をかけると、何やら紙の手提げ袋を持って、綾さんが奥から出てきた。
「これ、たいした物じゃないけど、持って行って」。
「あっ、すいません」。
「お菓子、作ってみたの。後で食べてね」。
上がり口に置かれた手提げ袋には、ステンレス製の携帯ポットも入っていた。
俺がそのことに気付くと、綾さんは簡単に説明してくれた。
「あっ、これはミルク入れておいたの。凍らしておいたお乳も入れてあるから、今日の内くらいは大丈夫だと思うわ。でも、もし悪くなってたら無理しないで捨てちゃってね」。
この心遣いは嬉しかった。
話し終わった後、照れ笑いをする綾さんを見詰めていた。俺は靴を履いたままで、彼女は一段高い床の上に立ったままだった。
綾さんの顔から、すうっと笑みが消えた。
「そうね。悪くなってたら、もう飲めないわね。最後にここで飲んで行く?」。
俺は、コクリと頷いていた。
「私も、今日で断乳するから、ね」。
言い終わると後は黙ってブラウスのボタンをはずし始めたんだ。
俺も無言でそれを見ていた。
上から一つボタンがはずれる度に、袷が自然に開いてゆき、俺を夢中にしたアイボリーの深い谷間が現れてくる。
お臍の少し上くらいまではずし終わると、袷の左を手で脇に寄せてくれた。
下から現れたのは、純白の清楚なデザインのブラジャーだった。
それでも、迫り出すように張り詰めたブラジャーは、相変わらず見事だった。
綺麗なレース模様のカップに綾さんの手が掛かり、そのままカップは、下にずり降ろされた。
ボロンと姿を現したオッパイは、瑞々しく張りがあり、頂上には少し大きめの乳輪に囲われた桃色の乳首が飛び出していた。
あらためてその部分を眺めてみると、初めて綾さんのオッパイを見たときに比べ、乳輪や乳首の色が随分と薄くなったように思えた。
それでも、その頂は、俺の期待を裏切ることなく、先っぽに白い雫が滲み出てきた。
雫は直ぐにその大きさを増して、乳頭の下側に滑り落ちる。
桃色の突端の下からは、ポタポタと雫が滴り始める。
数珠つなぎとなったミルクの粒は、勢いを増してやや前方に飛沫を散らす。
「さっ、これが本当に最後だから、好きなだけ飲んで」。
その言葉に我に返った俺は、迷うことなく綾さんのオッパイに喰らい付いた。
「これから断乳なんて出来るんだろうか?」と疑いたくなるくらいミルクはたくさん湧き出していた。
甘くて美味しい綾さんの母乳を噛み締めるように飲んだ。
目を瞑って暫くは、無心で愛しいオッパイを吸い続けていた。
「本当は、こうしてずーっと駿くんにお乳を吸い続けて欲しかったの。夜だって毎晩抱き合って居たかったわ。でも、やっぱり無理。ずうっと続けられることじゃないのよ。将来のある駿くんの可能性をこんな下宿屋で使い果たしちゃいけないの。ここは、渡り鳥の休憩地みたいなもの。だから、羽を休めてお腹一杯になった後は、本格的に夏を過ごす土地に向かって羽ばたいて欲しいの。ね」。
彼女の手が頭に触れ、優しく撫でてくれた。
目を開けると、象牙色のオッパイが眼前に迫っていた。
焦点が合うと、魅惑の球面には細かい静脈が網の目をなしていた。
そこに一箇所光るものを見つけた。それは水で濡れて光っていたんだ。
また一つ光る部分ができた。
その水滴は、母乳のように白くはなかった。もっと澄んだ透明な水滴だった。
もう一つ水滴が増えたとき、目線を上げてみる。
どこか遠くを見詰めるような綾さんの目が潤んでいた。
そう、綾さんの涙が零れて瑞々しい乳房に落ちていたんだ。
それを知ると、いっそう口に力を入れて、母乳を吸い始めていた。
淡い色に戻った乳輪にキスマークが付きそうなくらいきつく吸いたてていたのに、綾さんは、優しく俺の髪を撫で続けてくれていた。
いつまでもミルクを飲み続けていたかったが、ほとんど無尽蔵に湧き出す綾さんの母乳を全部飲み干すことなんて出来るわけない。
最後にオッパイに頬擦りをしてから顔を離した。
「ありがとう。これで何とか私もお乳から卒業できそうだわ」。
「お礼を言うのは僕の方ですよ。夢みたいに楽しい下宿生活でした」。
まだ剥き出しのやや伸び心になった乳首からは、止まることなく白い雫が滴り続けていた。
「本当は、外で車を見送りたいけど、ほら、お乳がまだ出続けてるから、ここでね」。
無理に笑顔を作ると、簡単にブラウスを留め戻し、俺に紙袋を渡してくれた。
「じゃあ、これで失礼します」。
「ええ、運転、気をつけてね。元気で居てね」。
綾さんは、言ったとおり玄関の外には出てこなかった。
口では、溢れるお乳を理由にしていたが、本当は、走り去る俺を見たくなかったのかもしれない。
車のシートに座った後、俺も目頭が熱くなって、直ぐに発車できなかった。
それでも何とか車のエンジンをかけた。二回警笛を鳴らして下宿屋を後にしたんだ。
新しいアパートで引越しの荷物を下ろした後、慌しく最低限生活に必要な荷物だけを開梱した。
一息ついて、綾さんからの紙袋を開けてみることにしたんだ。
袋の中には、母乳の入ったポットの他、紙の包みが納まっていた。
風呂敷包みを小さくしたような、その結び目を解くと中には手作りのクッキーが入っていた。
この日の朝、香ばしい匂いがしたのは、これを作っていたからだということにやっと気付いた。
よく観ると、その一番下に油取りのためか、直径十センチくらいの丸い紙の様な物が敷いてある。
約二年間、あの下宿で生活をしてきた俺には、それが何であるか直ぐに解った。母乳パッドだ。
綾さん流の洒落心か、断乳の意思表示なのかは定かではなかったが、クッキーをどうやって作ったかは容易に想像できた。
そして、そのクッキーを一つ摘んで、口に入れた。その途端に、何ともいえない懐かしい香りが口に広がる。
それは、間違えなく綾さんの母乳の香りだった。
あれから何年たっただろうか。
綾さんとは、年賀状のやり取りだけはしていたものの、その後も会ったことは無い。
正直言うと、あの魅力的な綾さんと再会したら、性欲を抑えられるどうか自信が無かったんだ。
その後、俺は麻美と結婚し、平凡に暮らしている。
付き合った期間が長かったため、ドラマチックな恋愛というわけにも行かなかった。
性生活の方は悪くもないが、まあ、ノーマルというところだろう。
唯一変わったことといえば、子供が出来て一年ほどの間、女房の母乳を飲んだことくらいだろうか。
もちろん、少し面倒くさそうな顔をしつつ、母乳育児を手伝う夫を演じてのことだった。
まあ、現実はそんなところだ。
いつも潤沢に母乳を溢れさせていた大きなオッパイ。長い脚の上で揺れるミニスカートと、その下に何も穿いていないスベスベの股間。そして、いつも笑顔を絶やさない優しさ。
あの下宿での綾さんとの二年間は、俺の記憶に今も鮮明に焼き付いている。
(完)
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