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強烈な一発が終わり、気だるさから少し開放されると、二人は風呂から出た。
俺は宿の浴衣を簡単に着て部屋に戻ったんだが、綾さんは違った。
遅れて部屋に入って来た彼女は、濃紺の地に花や蝶の模様の付いた浴衣を着ていた。
宿の浴衣ではなく、家から持ってきた物のようだった。
「こういう所で出される浴衣って、女性用だとたいてい身幅が足りないの。だから昔誂えたの出してきちゃった」。
「へー、いいじゃないですか」。
「でも、結婚する前に作ったのだから、これでも袷が開き気味になっちゃうの」。
言われてみれば確かにVラインが少し大きいような気もするが、だらしなく見えるほどでもなかった。
それより、帯も朱系の鮮やかな物で、なかなかにセンス良く、和装の綾さんに見惚れるほどだった。
「そんなにジロジロ見ないで。何んか目がエッチよ。裸を見られてるみたい」。
口では、そんなことを言っていたが、まんざらでもない様子だった。
綾さんは手に持っていたタオルの間に挟んでいたブラジャーをそそくさとカバンに仕舞おうとしていた。
「そのブラ、だいぶ湿気てるんじゃない?」。
「ええ?」。
「たっぷりとミルクを吸ってるだろうし、湿ったタオルに包んでたんじゃあ、じっとりでしょ。そのままカバンに入れててたら、ムンムンで臭くなっちゃうかもよ。カビまで生えたりして」。
「やだー、変なこと言わないでー」。
「カビは大げさだけど、少し乾かしておいた方がいいと思ってさ」。
「どうするの?」。
「ほら、そこにタオル掛けが在るでしょ。それに引っ掛けといたら?」。
「ええー」。
「障子の外に置いておけば、直ぐ乾くよ」。
綾さんはカップの部分に手を当てて、湿り具合を確認しているようだった。
そして、タオル掛けに近づくと、ストラップを水平になった金属の棒の部分に通す。
「こんなの宿の人に見られたら、なんて思うかしら?」。
そう言うとタオル掛けを持って、障子開けて出て行った。
障子の外側は、縁側のようになっていた。
綾さんは、脚を外に投げ出すようにして床に座っていた。
一メートルくらい離れた所にタオル掛けが置いてあった。
ピンクのブラジャーは、両方のカップともしっかり出っ張るように吊るされていた。きっと、形が崩れないように整えたんだろう。
僅かな風にブラジャーのホックの部分が揺れていた。
その風に、綾さんも火照った身体を当てていたようだ。
風にそよぐレース使いのブラジャーと彼女の後姿を交互に見て「綾さんは今、ノーブラなんだよなー」などと、妙な感慨に耽った。
彼女の後に立つと、アップにされた髪の下のうなじが見下ろせた。
「女の人の襟足が色っぽい」っていうのが、このとき初めて解ったような気がした。
俺も彼女の横に腰掛けた。
「今日は暑いくらいだったから、この風、気持ちいいわね」。
ほんの少し風が強まったとき、綾さんは手で顔を扇ぐのを止め、俺に肩を預けてきた。
風呂上りの女性の清涼な香りがしてきた。
この香りが、たまらなかったのかもしれない。
俺は綾さんの両肩を挟みつけるように掴み、俺の方を向かせると、一気に彼女の唇を奪った。
初め驚いたような彼女も一応はキスを受け入れてくれた。
だが、舌を唇の間にこじ入れようとしたときに、スッと綾さんの顔が遠退いていった。
「駿くん、まだまだ修行が足りないぞー」。
きっと阿呆面をしていただろう俺に、優しい笑顔を絶やさないよう綾さんが言ったんだ。
「無理に事を運ぼうとしたらダメよ。キッスも同じ。嫌がられなかったら、まずはしっかりお互いを吸い合わないと。それから、相手の下唇の上の所を軽く舌で触れるの。もし、彼女がその気だったら、唇を少し開けてくれるわ。そしたら、今度は優しく前歯を嘗めるの。お互いが合えば自然に舌を絡めることになるわ」。
俺は軽く頷くことしかできなかった。
「とにかく、焦っちゃ負けよ。今度しっかり手ほどきしなければならないわね」。
綾さんは、決して不快な顔をしたり、馬鹿にしたような言い方はしなかった。
だが、この場では、俺の方が完全に下だった。
あわよくば、浴衣の襟元から手を突っ込んで、ノーブラのオッパイでも揉もうと思ったんだが、このときは引き下がるしかなかった。
時間は、六時少し前だったと思う。
夕食は、この部屋に運ばれてきた。料理は当然のように和食だった。
天ぷら、刺身、それに煮物などが並べられた。
当時若輩の俺には判らなかったが、今にして思えば、たいして豪華なものでもなく、旅館の料理としては、在り来たりなものだったと思う。
軽いキス止まりだった先ほどのことも、綾さんは気にする風もなく、食事をしていた。
というか、むしろ綾さんは、はしゃぎ気味だった。
「お刺身を食べるときはねー、お醤油にわさびを混ぜるんじゃなくて、お刺身自身にわさびを載せて食べるの。こうすると辛さも引き立つし、お刺身本来の味も良く分かるの」。
出された料理の美味しい食べ方の講釈なんかもされて、俺は圧され気味だった。
酒は、俺がたいして飲めないこともあって日本酒は頼まず、ビールだけを飲んでいた。
大瓶を四本くらい出してもらったと思う。
その半分以上というか、大半を綾さんが飲んでいた。
まあ、俺は温泉でたらふく母乳を飲んでいたから、それほど喉も渇いていなかった。逆に綾さんは、一リットルくらい母乳を搾っていたわけだから、相当に水分補給が必要だったのだろう。
食事の終わり近くなって、お吸い物とご飯が運ばれてきた。
持って来たのは、宿に入ったとき心付けを渡した仲居さんだった。
「まあ、見違えそうでしたよ。こんなに浴衣の似合う方も最近は珍しいくらいですよ」。
仲居さんの言葉は、リップサービスとも言えなくはないが、綾さんが色っぽいのは確かだ。
「せっかく、すばらしい浴衣をお召しになってるんですから、後でお祭りに行ってみられたら如何でしょう」。
「そういえば、こんな平日にお祭りをするって、珍しいんじゃないですの?」。
「ええ、そうなんですよ。ここの氏神さんは蛇に縁があるんで、お祭りは巳の日と決まってるんですよ。巳の日が金曜や月曜だったら、二日間の祭りの内どちらかを休みの日に当てるんですけど、あいにく今年は巳の日が週中だったんで、こんなことになっちゃってるんですよ」。
「へー、そうなんだ。変わってるねー」。
「ここいらのお祭りは、時期も遅いですしね。でも、神社の境内には、けっこうな数の夜店が出てるんですよ」。
「季節外れだから、逆に他に行くところがなくて店が集まってくるのかなー」。
「そうかもしれませんねー。確か夜店は九時までですから、お食事が終わってからでも充分間に合いますよ」。
「あら、じゃあ後で行ってみようかしら」。
「そうなさいな。今日は陽気も温かいから、上を羽織らなくても大丈夫のようですし。ここから歩いて十分くらいの所ですから」。
「じゃ後で道順を教えてくださいな」。
「はい。お食事の最後にコーヒーをお持ちしますから、そのとき地図をお渡しします」。
仲居さんが出て行った後、綾さんはますます上機嫌になっていた。
まあ、少々圧され気味だった俺としては、綾さんの思いが祭りに向いてくれたことがほっとしたんだが。
食事が粗方終わったところで、コーヒーが出てきた。
約束通り付近の地図も渡された。
ただ、このコーヒーは、カップが大きめだった。っていうか、コーヒーの量が少なめだったんだ。
食後のコーヒーといえば、小さめのカップで出てくるのが普通だから、量自体は少ないこともないんだろうけど、逆にコーヒーカップがアメリカン用のみたいな物で、不釣合いになってたわけだ。
でも、このコーヒーを見て俺は、ある余興を思いついたんだ。
「綾さん。このミルク二つとも使う?」。
「あら、ありがとう。今日は、あまり牛乳飲んでないから貰っちゃおうかしら」。
何の警戒もなくカップミルクをコーヒーに注ぐのを見届けてから、俺は切り出したんだ。
「あっ、やっぱりミルク入りの方がいいかなー」。
「えっ?もう使っちゃったわよ」。
飲みかけたコーヒーカップを一旦テーブルに置いて、彼女が俺の方を見詰める。
「無いんじゃしょうがないか。じゃあ、綾さんのミルク少し入れてよ」。
「えっ?」。
もう、彼女には俺の狙いが全て解ったようだ。
「仕方ないわねー」。
綾さんは、左の襟を引き上げるようにして合わせを緩め始めた。
「それとも、温泉で全部搾っちゃったから出ない?」。
「そんなことは無いと思うわ。コーヒーカップ一杯分くらいだったら充分出ると思うけどー」。
せっかく結婚前の浴衣を着て、若い頃に戻ったような気分に水を差したかもしれない。
でも、俺としては、恥じらいながら袷を広げる綾さんの姿を見ることができて嬉しかった。
普段も毎日のように俺の目の前でオッパイを晒してくれてはいたんだが、もうこの頃は日常になりすぎて、ときめきが薄らいでいたんだ。
ところが和服の綾さんは、ある意味非日常だから、興奮も一入だった。
綾さんにしても、着物を着て、家じゃない所でオッパイを出すのは羞恥心が強く働いただろう。鼻の脇を赤くしながら襟元に手を差し入れていた。
帯がしっかり止まっていたせいか、少しやり難そうにしながらも、ついに巨大なオッパイが姿を現す。
濃紺の服地と白いオッパイ、そしてピンクの乳首のコントラストが絶妙で、その姿は正に妖艶だった。
綾さんは、オッパイを下から持ち上げるようにして、軽くマッサージをする。
コーヒーカップを引き寄せたが、このときはカップを持ち上げず、そこに上からオッパイを被せるような体制で、乳輪の辺りをギュッと指で挟みつけていた。
ジューッジューッと白汁がコーヒーに注がれる。
心配するどころか綾さんの胸からは、いつもと変わりなく母乳が迸っていた。
程なくミルクを目一杯まで注ぎ足されたカップが手渡された。
カップ液面は、八割方泡に被われていた。ただ、真ん中の部分だけが丸く空いて、それでコーヒーであることがわかるんだ。
このとき知ったのは、母乳はクリームのように浮かず、牛乳のようにコーヒーに沈むことだ。
ただし、飲んでみると、それはもろにカフェオレ状態だった。
目の前には、まだ片方のオッパイだけを剥き出しにした綾さんが居た。
和服の袷から白い胸が露出する姿がこんなに淫靡とは思わなかった。
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