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「今日は、シチューなの」。
テーブルの席に着いた俺に向かって言いながら、綾さんはよそった深皿を目の前に置いてくれた。
俺のくだらん想像を裏切るように、シチューはコンソメ風のものだった。
「クリームシチューにしようかと思ったんだけど、それはまた今度ね」。
そんなこと言われたって、なんて答えたらいいんだ。俺は食事の間中「はあ」とか「ええ」としか言えなかった。
それでも、彼女は一生懸命話題を投げかけてくれていた。
食事が粗方終わったころ彼女からの話も途切れ、二人とも沈黙した。
息が詰まるような緊張感だった。
五分近くも沈黙が続いただろうか。また、おもむろに綾さんが話し始めた。
「もう知ってると思うけど、私、出戻りなの。前の旦那には、もう全然未練は無いんだけど…。実は、子供が一人居るの。その子は、旦那の方が引き取って育ててるんだけど、本当は私が引き取りたかったの。でも、向こうは、ご両親も健在だったし、こっちは、体の弱った母親だけだったから。それに、男の子だったんだけど、その子も一歳を過ぎて、もう離乳食になってたの」。
何でそんな身の上話を始めたのか、まだ理解できずにいた。だが続きを聞いて意味が解ってきたんだ。
「その子、シュンっていう名前なんだ。後ろに何も付かない一字なんだけど、字もあなたと同じ『駿』なの。それもあって特にあなたのことが気になったの…」。
俺は、あまり目が合わせられずに、少し下向き加減だった。少しの間綾さんの顔を見て目を伏せるということを繰り返していた。
見るとはなしに目線の先は、彼女の胸元にあった。
そのとき気づいたんだ。テーブルの上に半分乗っかるようになっていた綾さんの大きな胸の所に小さなシミができていることに。
そんなに長い時間じゃなかったと思うが、俺はブラウスのシミを見詰めていた。
「あっ、また出てきちゃった」。
綾さんも、それに気づいたようだ。
「私ね、元々胸は大きい方だったの。それが、赤ちゃんが出来て、いよいよ大きくなっちゃったの。その違和感ていうかツッパリ感が気になって、妊娠中は胸の辺りを弄ったり持ち上げたりするのが癖になってたの。『それが効いたんじゃないか』って後でお医者さんは言ってたけど、子供が生まれてからは『えっ、こんなに』って言うくらいお乳が出たの。毎回赤ちゃんにお乳をあげた後も余っちゃって、搾乳…残りを搾ると哺乳ビン二本分出しても、まだ搾り切らないの。それが毎回よ」。
綾さんは、溜まっていたものを吐き出す様に、話し続けていた。
「駿の離乳の時期になっても、オッパイは全然衰えなかったの。あげる回数が減ってもお乳が張ってくるのは、ほとんど変わらなかったわ。無理に我慢しても勝手に噴き出してきちゃうの。一時は、胸をタオルでぐるぐる巻きにしたりして、断乳…お乳を止めようとしたんだけど、全然だめ。そんな状態のまま離婚して、泣き声を聞くこともなくなったのに、まだ出続けてるの。産んで、もう一年半も経つのにね」。
言葉が途絶えると、綾さんは目を落とす。
さっきから滲み出していたシミは、さらに大きくなっていた。
すると、綾さんはブラウスのボタンをはずし始めたんだ。
何か返す言葉はないか考えていた俺の頭は、ぶっ飛んだ。
綾さんは、鼻の脇辺りを少し赤くしながらも、俺の目の前で襟元を開いていった。
ブラウスの中に隠れていた大柄なレースのブラジャーが見え始めた。
汗に湿って透けているブラウス越しにブラジャーを眺められることや、何時ぞやのようにブラジャーだけを手にとって見たことはあるが、生身のオッパイを包んだブラジャーをこんなに間近に見るのは初めてだ。
白いブラジャーに支えられて息づいていたオッパイは、異様なほどに大きかった。
以前に盗み見た様に、顔がすっぽり埋まるほどに大きいブラジャーのカップが窮屈に見えた。カップの上の縁がオッパイの肉に食い込んでいたんだ。
ブラウスの袷をすっかり広げると、ブラジャーの左の肩紐に手を掛け、下げていった。
カップの上の方が裏返ると同時に、綾さんの生のオッパイが、姿を現し始めた。
オッパイは、色白の首元とほとんど変わらない淡い肌色で、日焼けによる下着の跡などは無かった。
ただ、肌自体は木目細かいんだが、形は大きくなり過ぎた梨のように少しぼこぼこしていた。
ブラジャーのカップが半分近く裏返ると少し赤みを帯びた部分が見えだした。そう、乳輪だ。
そして、とうとうオッパイの頂点が俺の目の前に現れた。親指の先より少し細いくらいだ。
綾さんは、半分以上捲れ返ったカップに手を掛け、少し無理やりカップをオッパイの下に押し下げる。
真っ直ぐ俺の方を向いた球体の中央部に色づいた乳輪は、直径六センチくらいで、色はピンクだが少し褐色がかっていた。
何か見ちゃいけないような気もしだが、やっぱり俺の目はそこから視線を逸らすことができなかった。
見ていると、乳首の下に白っぽい雫が付いていた。それは、あっと言う間に成長し、縦長の水滴となって落ちて行った。
直ぐに新たな雫が浮き出し、また落ちて行く。
段々雫の落ちる間隔が短くなって、ついには、一筋の流れのように見えてきた。
そのとき、綾さんの右手が、乳輪の少し外側を囲うように当てがわれた。
左手には、食べ終わって空になった茶碗を持っていた。
「赤ちゃんのことを考えたかしら。こんな風に、勝手に溢れてきちゃうの」。
彼女の右手は、けっこうきつくオッパイを挟みつけた。すると乳首の突端辺りから、勢い良く幾筋もの細くて白い線が出現する。
母乳がこんなに分散して噴き出すとは知らなかった。
綾さんは、その白い筋を近づけた茶碗に受けるようにした。チーチーと茶碗が共鳴する音が聞こえた。
彼女は、俺の視線を大して気にすることなく、母乳を搾り続けた。
放射状に噴き出すミルクの筋は、全てが茶碗に命中していたわけではなく、テーブルの上にも白い飛沫が盛大に飛び散っていた。
茶碗に注がれる母乳の音は、そのうちジュージューという音色に変わり、溜まった液面を泡立て始めた。
何分か搾り続け、やがて茶碗は米の研ぎ汁のような母乳に満たされていた。
茶碗をテーブルに置くと、左のオッパイをラフにブラジャーに納め、今度は右のオッパイを剥き出しにする。
こちらのオッパイは、さらに母乳の勢いが強くなっていて、カップを下げ切った途端に噴水のようにミルクが飛び散っていた。
「これ、貸してね」。
俺の目の前にあった茶碗を取り上げると、先ほどと同じように母乳を搾り始めた。
オッパイを搾っている間、彼女が何を考えているのか少し詮索していた。
最初、俺のことを誘っているのかとも思ったが、無心で母乳を搾る様子から、そうでは無さそうだった。
今にして思えば、綾さんは自らオッパイを晒すことで、食事の前に、オッパイを搾るのを盗み見たという俺の罪悪感を打ち消そうとしてくれたんだろう。彼女は、そんな優しい人だった。
「あー、だいぶ楽になったわ」。
綾さんは、オッパイをブラジャーの中に仕舞い、また話し始めた。
「ね、今でもこんなに出るの。さっきもお乳が張って少し痛かったし、まだ帰ってくるわけ無いと思って…。ちょっと恥ずかしいところ、見られちゃった。あんな格好、見られたもんじゃなかったでしょ」。
一応、首は振ったが、「もっと見たかった」とも言えるはずもない。
「実はね、牛乳切らしてたの。買いに行けばいいのに…、おうちゃくよね。でも、結局は使わなかったから安心してね」。
俺は、伏目がちに母乳の入った茶碗を見つめていた。
「それとも、それ飲んでみる?」。
俺は、返答に困った。
「冗談よ。駿くんは駿也くん。私の子供の駿じゃないものね」。
この夕食で綾さんのオッパイを間近で見ることができたんだが、決して居心地の良いものではなかった。だが、綾さんの少し作ったような明るさで救われた。お陰で、二人の間に気まずさが続くことはなかった。
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