真昼の情事/官能小説

  賄い付き下宿

                        蛭野譲二

   5.目撃


  
 もう、この下宿に綾さんと俺の二人きりになった頃だ。

 その日は、四限目が休講になって、いつもより早く下宿に戻ってたんだ。

 部屋で寝っ転がってたら、ついついウトウトしてた。

 カタカタと人が何かしているような音で目が覚めた。音は、食堂の方から聞こえていた。

 時計を見ると午後四時を少し回ったところだった。

 きっと綾さんが夕飯の支度でもしてるんだろうと、たいして気にもしなかった。

 それから少し経って、トイレにでも行こうと部屋のドア前に立ったときだった。

 その何十秒か前に食堂からほとんど音が聞こえなくなっていた。

 僅かにシューシューという耳慣れない音が聞こえているのに気づいたんだ。

 ドアを開けると、音はさらにはっきり聞こえた。ジューッ、ジューッといった間欠的な音だった。

 「何だろうな?」くらいのことは思ったが、別に様子を伺うように、そっと廊下に出たわけじゃない。だが、ことさらに音を立ててドアを閉めたり、バタバタと歩いたわけでもなかった。

 歩いていて、廊下側から食堂の中が見え始めると、そこには一人の女の人が居た。綾さんだ。

 綾さんは前のめりになって、テーブルに上体で覆うような格好をしていた。

 この瞬間はまだ、彼女が何をしているのかわからなかった。

 ただ、当時珍しくスカートが少し短めだった。

 斜め後ろから見るくらいの位置に居た俺からは、スカートの裾から伸びる脚が目に入った。膝小僧の裏の十五センチくらい上まで見えていた。

 「おっ、けっこう綺麗な脚だな」なんて思い、自然に歩く足が遅くなっていた。

 そのとき、またあのジューッ、ジューッて音がしたんだ。

 「一体全体、どんな料理を造ってるんだ?」。

 そう思うと、綾さんを前から眺める位置に来るよう、ゆっくり進んだんだ。でも、食堂に入っていったわけじゃないから、彼女とは二メートルくらい離れていた。

 綾さんは、少し大きめの片手鍋に覆いかぶさる様にして、肘を折って横に突き出していた。

 力を入れて何かを絞っている様な格好だ。いや、実際「何か」を搾っていたのだが。

 また、ジューッという音がして、綾さんが心持ち体を起こした。

 このとき初めて、彼女が何をしているのかが理解できたんだ。

 綾さんは、ブラウスからオッパイを丸出しにして、両手で押さえていた、いや、オッパイを絞り上げていたんだ。

 ちょっと遠かったが、僅かに乳首も見えた。

 また上体を鍋に押し付けるようにすると、ジューッという音が聞こえた。

 俺は、その異様な光景に、半ば凍りついたように彼女を眺めていた。

 人の気配に気づいたのか、不意に彼女が顔を上げる。

 俺と目が合ってしまったんだ。

 綾さんは、慌ててオッパイを腕で覆った。

 俺もどうしていいかわからず、逃げるようにトイレに入ったんだ。

 ションベンを済ませたが、今出ていいもんかどうか迷った。

 だが、何時までもトイレの中に居るわけにもいかない。

 結局、何分も経たずに水を流してトイレから出た。

 食堂には、既に綾さんの姿は無かった。料理途中の食材なんかが出しっぱなしになっていた。

 俺は、それから二時間以上部屋に閉じこもり、寝っ転がって天井を見詰めていた。

 頭に浮かぶのは、チラリと見えた綾さんのオッパイのことばかりだった。


 「ご飯、出来たわよ」。

 綾さんの声だった。

 俺は、無理に思いを断ち切るようにして、のろのろと起き上がった。

 部屋の扉を開けると、そこには、まだ綾さんが立っていた。

 「今日は、一緒にご飯食べよっ」。

 そう言った綾さんは、無理に笑顔を作っているようだった。

 「気まずい思いは、早く解消したほうがいい」。

 きっと、そんなことを思ったんだろう。俺も同感だった。

 「あっ、いいですね」。

 何とか答えたものの、笑顔までは作れなかった。



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